memento

audio&visual, headphone&earphone, bicycle, music, animation, book, wine...趣味領域の外部記憶装置です。 <since 10 aug 2006>

ηなのに夢のよう(森博嗣)

ηなのに夢のよう (講談社ノベルス)

ηなのに夢のよう (講談社ノベルス)

地上12メートルの松の枝に首吊り死体が!;遺されていたのは「ηなのに夢のよう」と書かれたメッセージ。;不可思議な場所での「η」の首吊り自殺が相次ぐなか、西之園萌絵は、両親を失った10年まえの飛行機事故の原因を知らされる。;「φ」「θ」「τ」「ε」「λ」と続いてきた一連の事件と天才・真賀田四季との関連は証明されるのか?;Gシリーズの転換点(ターニングポイント)、森ミステリィ最高潮!

このGシリーズって、当初は海月及介が犀川創平的役割で謎を解き明かすミステリーとして構想していた(だから当初はQシリーズと称していた)と思うのですが、途中から完全に方向転換をして、これまでのシリーズの集大成的シリーズにしようとしているのですかねぇ?個人的にはその方が嬉しいですが、以前にも少し触れたように、人死事件(殺人事件であったり自殺であったり...)自体は環境変数の一部に過ぎなくなってきていて、事件単体としての謎解きにもはや魅力はありません。いまや最大の焦点は「真賀田四季は一体何をしようとしているのか」という謎であり、そしてその中心人物たる真賀田四季犀川創平、西之園萌絵との関係性がどうなっていくのかという点に移ってしまいました。もちろんその大きな「系」が変化していく中で犀川と萌絵という小さな「系」がどう変化していくのかという点も注目されます。
個人的推測としては、その大きな「系」に対して影響を及ぼさない海月及介、瀬在丸紅子という外部要因が、Gシリーズという小説上の重要な要因として最後に役割を果たすのではないかという気もします。つまり真賀田四季犀川が語らなかったパーツを、観測者としての2人が推測補間する(いわば語り部?)のではないかという意味です。もちろん系の外部にいる海月が知り得る情報は極めて限られているはずなので、海月に対しては萌絵が境界条件を提示するという前提ではありますが。
今回のお話では前回に引き続いて萌絵の心理描写が印象的でした。トーマの死に象徴される新たな境界条件への移行、そしてその変化を静かに受け止めることができた萌絵。萌絵ファンとしては萌絵の人間的魅力がますます増していく感じで喜ばしい限りです。ちなみに海月くんは、いつも本を読んでいるところ、最小限の意思表示・感情表現など、対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェイスに重なって見えてくるのは私だけでしょうか?
Gシリーズもまた10冊だとすると残り4冊となりました。触れるのを躊躇ってしまうような鋭利な思考展開を期待したいものです。