AET SIN DG75のアナログ使用という変則技から繰り出される音は、(Organic Audioと比較して)情報量も解像力もレンジの広さも十分で、密度感があって音のエッジもまずまず立っており、若干面白味に欠けるきらいはあるものの、かなり良い音だと思います。でもこれってアリなんでしょうか?
ステルス・インドラのアナログインターコネクトケーブルをデジタルケーブルとして使用するとイイ感じといった話はありますが、「デジタルケーブルをアナログ使用したら良かった」というのはネットでも見た記憶がありません。
そもそもデジタルケーブルは高周波を扱うので、アナログケーブルよりも高いシールド性能が求められるのではないかと思います。また表皮効果が強くなるので、導体や構造設計にもアナログケーブルとは異なるノウハウが求められるような気もします。
価格を比較してみると、メーカーによっては同じクラスのアナログインターコネクトケーブルの1本単価よりも(デジタルケーブルの方が)高い場合もありますし(Nordost Valhalla、Chord Sarum)、片やデジタルとアナログがほぼ同じ場合もあるようです(WireWorld、Esoteric Mexcel)。Esoteric Mexcelの場合はそもそもアナログ用/デジタル用という区分け自体を行っていない(つまりどちらの用途にも使える)ですね。
ではAET SIN DG75はどうかというと、SIN LINE EVDや旧モデルのSIN LINE EVOと比べれば1本単価は高く、最高グレードのEVIDENCE LINEと同じ単価となっています。AETのデジタルケーブルはSIN DGが長期にわたって販売されており、比較対象モデルが難しいところですが、(多分)発売が同時期の旧モデルとの単価の違いを考えると、おそらくは異なる設計になっていると思われます。
設計が異なるかどうかはケーブルの構造を見てみれば一発でわかりますが、残念ながらDG75のケーブル構造は公開されていません(非同軸構造とのみ開示)。ただし、先に挙げた3モデルのアナログインターコネクトの導体が全てプレミアムバージン銅であるのに対し、SIN DG75はプレミアムバージン銅+純銀コーティング(表皮効果への対策?)となっているので、デジタルケーブルだけは異なる導体を使用していることがわかります。
シールドを見てみると、どちらも「アモルファス合金シールド(複合多層構造:現行モデルは非マグネシウム系)、グラファイト・ファイバー」なので、細部は異なるかもしれませんが基本的にはデジタルとアナログは同じシールド設計のようです。
高純度銅に銀加工を施すのはアナログケーブルでも一般的なので(wireworld Silver Eclipseはシルバークラッド処理、Valhallaは押し出し銀メッキ加工、SARUMは銀メッキ加工など)、以上の事実から推察すると、SIN DG75をアナログ使用することには何ら問題がないように思えます。実際の試聴結果でも何ら違和感は感じないので、きっとそういうことなのでしょう。
賢い人ならこれで良しとするのかもしれませんが、私は変則技ってやっぱり気になってしまうのですよ。餅は餅屋というか、専用設計に如くはなしというか...。(尤もデジタルがアナログを包括する高いスペックである場合は、「大は小を兼ねる」という見方もできるのですが...)
いったん気になり始めたらやってみないと気が済まないのが私の悪い癖で、どうしてもアナログインターコネクトに交換した音を確かめてみたくって、迷ったあげく導入したのがWireWorld Platinum Eclipse(以下、PEIと表記)というわけです。
※PEIはシリーズ6なのでPEI6かと思っていたのですが、正式には6というシリーズナンバーは付かないようです。HDMIケーブル等は既にシリーズ7になっていますから、早晩インターコネクトもシリーズ7になるはずですが、PEIはどう表記するのでしょう?
PEIはGold Eclipse6(以下、GEI6)と同じく高純度銀を導体として使用しているので、恐らくは華やか系・煌びやか系の音ではないかと推察され、実はこの点が迷いの原因でした。華やか系・煌びやか系の音は嫌いではありませんが、過剰になるとウザイのです。また大昔に使ったGold Starlight3の悪夢も頭にちらついたりして...。まあGold Starlight5の音がシリーズ3の時の様な「派手な色彩の油絵っぽい音」ではなかったので大丈夫だとは思っているものの、今回はGoldの上のPlatinumですから(ワイヤーワールドは上位モデルほど音が派手?)やっぱり不安は拭いきれないわけで...。
そんなわけで一応対抗馬も検討したのですが、Sarum Tuned-Arayの中古なんてどこにも見当たらないし(新品を買う予算があればSarumにしたと思う)、Valhallaは中古でも予算オーバーだし(それに2カ所のインターコネクトをどちらもValhallaにするのもやっぱり芸がないような気がする)、IndraやBlack Label2の中古もやはり高すぎるし、消去法的帰結の結果がPEIだったのです。
先日の日記にも書いたように「合わなかったらヘッドフォンオーディオシステムにコンバートすればいいや」と割り切って、若干の不安とそれなりの期待を持ってPEIをポチりました。
そしてご案内の通り先日の金曜日に届いたわけですが、初日、2日目はちょっと寝ぼけた感じの音でした。中古とは言えここしばらくは使われていなかったようなので、無論新品ほどではないにせよ、それなりのバーンインが必要だったようです。
で、3日目となる日曜日の夕方。30時間以上のバーンインを経て寝ぼけた感じはほぼ払拭されたので、ちゃんと試聴してみました。ちなみに試聴時の音声信号系ケーブル構成は以下の通りです。
CD2000mk3→MA1:Valhallaデジタル(RCA)
MA1→PL-L:PEI(RCA)
PL-L→SS-010:Valhallaインターコネクト(RCA)
SS-010→Guarneri memento:Chord Sarum
- 音の出方が軽やか(音が軽いのではない)。
- 高音も良く伸びているし、低音も深くて豊か。ただし小音量時の低音はSIN DGよりもやや控えめな感がある。
- 響きに華やかさがあり、艶っぽい。
- 女性ボーカルは色っぽくてとても好き。
- ボーカルの息づかい、声のかすれ等の描写がリアル。
- 音が緻密。重みをともなった凝縮感ではなく、解像力由来の緻密さだと思う。
- サウンドステージは前後左右に広いが、高さはそれほどでもない。
- 音像が気持ち前に出過ぎて奥行感が弱い(スーパーツイーターの位置を少し後ろに下げたらかなり改善された)。
- ボーカルの高さ、音の出位置が少し低くなった。
- 情報量や解像力は高いと思う(SIN DGと同じ〜僅かに高い?)。
- 音のテクスチャー感がよく聴き取れ、それが生っぽさにつながっている。
- 音の表情や色彩感が豊かなので、聴いていて楽しい。
一言で言うなら“美音”。予想通りWireWorldの上位モデルらしい華やかさ・煌びやかさがあるものの、思っていたほど過剰ではなくて良かったというのが正直な感想。このくらいの演出性であれば私の好みにぴったりですね。(ざっくり言うなら)Valhallaの方向性とも近いので、相方となるValhallaとの相性も良い感じです。
また、ついついその音の“美しさ”に耳を奪われがちですが、思っていた以上に基本性能は高いです。Platinumという称号は伊達ではありませんでした。
SIN DGとの違いは、基本性能の違いではなく表現の仕方の違いと言えます。これまたざっくり言うなら、PEIは印象主義で、SIN DGは写実主義かな?(だったらNBSは印象的写実主義?)。まあ絵画のようにぱっと見(ぱっと聞き)直ぐわかるような差ではありませんが、それぞれに良さがあって面白いです。
個人的な好みはPEIの方ですが、こうして比較してみると、アナログ使用のSIN DGもかなりのものだということがわかりました。今回はSIN DGとの置き換えを考えていたので(深く考えずに)アンバランスタイプにしましたが、バランスタイプを購入してMA1〜PL-L間にSIN DGと両方とも使用し、PL-Lのセレクタでケーブルを使い分けるという手もあったなと、ちょっと後悔しています。
最近わかったのですが、私が求めている〜求めていると言うよりは、違和感を感じないという方が正しいかもしれない〜のは「スペック的な部分と情緒的な表現力が、良いバランスで成立している音」のようです。スペック寄りになりすぎると心地よさが損なわれて疲れるし、かといって情緒的になりすぎるとオーディオ的な物足りなさを感じてしまうんですね。どちらか一方に偏るわけではなく、ほどよいバランスで両方の特徴を持っていることが望ましいわけで、若干物足りなさを感じていたスペック部分がSarumスピーカーケーブル導入によって強化され、SIN DGによってややスペック寄りになったバランスがPEIによって改善されたという感じです。
結果、今のバランスはとても心地よいのでヘタに弄りたくはないのですが、お約束の検証作業としてValhallaと使用場所を入れ替えて、どちらが良いかだけは確認しておくつもりです。多分今週末にでも。
それが終わったら、来年の夏にオラクルのクロック換装をするまでの間はシステムコンフィギュレーションを凍結してしまいたいくらいですが、きっとそうは問屋が卸さないよなぁ...(^_^;