バーンイン120時間経過。実のところまだ少しずつ音が変化しているようなので、現時点の音は“最終的な音に近い途中経過の音”ということにはなりますが、A2900の特徴については大体掴めたと思うのでざっとレポートし、TESLA・E83CCおよびGEC・A2900を擁したPL-Lのサウンドレビューは今回をもって終了にします。最近audioのことしか書いていないので、他のことも書きたいしですしね。
当初は購入したことを後悔するような酷い音だったA2900ですが、前回のレビュー(65時間経過時点)を境にネガティブな印象からポジティブな印象に変化し、以降じわじわとその秘めたるポテンシャルを顕わにしつつあります。
途中経過でも触れましたが、中域(特にボーカル域)の強さがこのA2900の大きな特徴のように思います。当初はこの中域の強さがかまぼこ形のf特バランスとして現れていましたが、今はボーカルや楽器の一つ一つの音の強さや勢いの良さとして現れてきています。
多少線は太めですが、きっちりとした芯を持ち、エッジが立って彫りが深く、やや濃いめで勢いのある、エネルギッシュでキレの良いサウンドという感じでしょうか。
マラードのようなふくよかで柔らかい音ではありませんが、それなりにしなやかさや艶っぽさは表現してくれます。繊細で解像度が高いという音でもないのですが、情報量自体が少ないわけではありません。私が真空管に抱いていた音のイメージとは本質的に違う感じの鳴り方をします。
音色はニュートラルよりも若干ウォーム寄り。以前聴いたCary300SEIはどんなCDでも熱くて濃いサウンドにしてしまいましたが、A2900は熱い音は熱く、クールな音はクールに表現してくれます。でもマラードに比べれば多少熱くて濃い音ですけどね。
サウンドステージは決して狭いとは思いませんが、マラードに比較するとややこぢんまりとしています。またマラードはサウンドステージの広さに注意が向いてしまうような空気感に一つの特徴があるように思いましたが(音の傾向は必ずしも同じではありませんが、たとえるならKimber Selectの音のような感じ)、A2900は空気感よりは楽器やボーカルの実体感を強く感じさせる音だと思います。
サウンドステージの立体感ではマラードの方が上ですが、そのサウンドステージに定位した楽器やボーカル自体の立体感はA2900の方が上でしょうか。
そして素晴らしいと思うのが、音の表情の豊かさ、ニュアンスの表現力です。これはエージング時間が100時間前後のあたりから感じ始めました。当初の音から考えると全く別物と言ってよいくらいの変貌ぶり。もちろんマラードも表現力は優れていると思いますが、マラードよりも表現の仕方がダイナミックです。テクスチャーレベルの表現ではなく、音の骨格を含めた音全体で表現しているというか、そんな感じ。日本人の感情表現と、外国人の感情表現の違いと言った方がわかりやすいでしょうか。
これまで述べたような特徴にこの表現力というファクターが加わると、結果としては凄くリアリティを感じさせる音になるんですよね。尤もこの音がリアルな音かどうかは別としてですが…(^_^;)
ただ、この音なら“12AT7の極めつけ”と呼ばれるのも何となく肯けます。
今書いていてふっと思いましたが、A2900ってもしかするとNBSに似ているかもしれません。好き嫌いはありそうですが、“独特のリアリティ表現力を持った、ある方向性における頂点としての存在”という点において、そしてその“リアリティ感”の方向性(音の描き方)において、A2900とNBSは似ているような気がします。なんかそんな気がしてきました。
何にせよ、12AT7をお使いの方だったら一度聴いてみても損はない音だと思います。
さて、ではこのままA2900で固定してしまうかというと、それは無いかなと...。
もちろんA2900の音はアリなんですが、マラードはマラードで良さがあるし、英国製以外の球〜特にドイツ系の球も聴いてみたいですしね。
もうしばらくはA2900を楽しんで、それから一度マラードに戻し(数日間しか聴いていないのでちゃんと聴き込んでみたい)、その次は別の球に手を出してみようかと思います。尤も12AX7の方までいじり出すと切りがないので、当面は12AT7のみで遊んでみるつもり。
将来的には12AX7と12AT7のお気に入りセットを幾つか作って、季節毎にローテーションできたら良いなと思います。
電線病はコストが高くついて大変ですが、PL-Lで使用しているMT管は高いビンテージ管でも1万円台ですからお財布にも優しいし、しかもケーブル以上に音の変化があるので遊ぶ対象としては言うことありません。
やっぱりPL-Lにして良かったなぁ...(^_^)
【最後に...】
A2900の話に終始してしまったので、最後にPL-L自体のことについてまとめておきます。「真空管アンプって扱いづらいのでは」と思われている方も多いかと思いますが(実は私もその一人でしたが)、「PL-Lは決してそんなことはないですよ!」というメッセージを込めて!
・真空管アンプの音は古くさい?
真空管の個性を反映した音には違いないのですが、オリジナルの音(メーカーチューンの状態)自体は色づけの少ないニュートラルな音のような気がします(この状態の音をほとんど聴いていないので推測ですが)。少なくとも古くさい音ではないと断言します。
・真空管アンプはノイズが多い?
PL-Lは全くそんなことはありません。むしろ聴いた瞬間にノイズフロアの低さに驚かされました!スピーカーに耳をつけてもノイズは全く聞こえません。
・真空管アンプは熱い?
これもそんなことはありません。天板を触ってもほんのり熱いくらいです。むしろパワーアンプのSS-010の方が数秒しか触っていられないくらい熱いです。ただし外部電源ユニットはわりと熱くなるので、置き場所には気をつけた方が良いでしょう。
・真空管は寿命が短い?
確かにへたってきたら交換する必要はありますが、メーカーは少なくとも5000時間は持つと言っていますし、実際にはそれ以上使えるようです。我が家のTESLA、A2900は長寿命設計の球なので1万時間は楽勝で持つみたい。毎日3時間使ったとして9年強です!
・真空管アンプは扱いに気を遣う?
PL-Lの3本の真空管は筐体内部に収められていますので、特に気を遣うことはありません。石のアンプと何ら変わりません。ただしPL-Lは電源ON/OFF時のポップノイズが比較的大きいので、スピーカー保護のため、電源ONの際にはプリ、パワーの順で、電源OFFの際にはパワー、プリの順で電源のON/OFFをすることをお薦めします。あと真空管を交換する際にも多少気を遣いますが、これは慣れが解決するでしょう。
・真空管アンプは使い勝手が悪い?
PL-Lにはリモコン(入力セレクト/音量調整/バランス調整/電源ON・OFF)がついています。最初に入力セレクタをリモコン位置に合わせておけば、普段の操作はリモコンだけで完結。昨今のデジタルボリュームとは違い、アナログボリュームをモーター(※冒頭の写真参照)で駆動していますので、リモコン操作に合わせてボリュームノブが実際に動きます!(楽しい♪)
また電源部(スイッチング電源)が別筐体となっているおかげで、本体自体は小さく軽く設置も楽ちん。ただし、入出力端子が裏面ではなく左右側面についているので、その点だけは注意が必要です。予めケーブルレイアウトをシミュレーションしておかないと、買ってから泣きを見るかも。
真空管プリアンプには真空管パワーアンプを組み合わせないとダメ?
勿論それはそれでアリだと思いますが、石のパワーアンプでも全く問題ないと思います。むしろ双方の持ち味がブレンドされて良い感じになるのではないかと。少なくとも我が家の場合はとっても良い感じです。(個人的には合わせるパワーアンプは純A級の方が良いと思います。)
真空管アンプの真空管交換は面倒?
固定バイアスのパワー管だと真空管交換の際にバイアス調整が必要だと思いますが、プリ管の場合は(通常の場合)回路自体にバイアス調整機能が備わっているため真空管交換の際の調整はありません。ただし交換する球のコンダクタンス(Gm)には気を遣った方がよいかも。12AX7は左右ch毎に1本ずつなので双極バランスだけではなく2本のバランスにも注意。12AT7は1本なので双極バランスに注意。バランスが悪いと左右chのゲインバランスが崩れます。ちなみに5%以下の誤差なら申し分なく、10%程度でも実用上はさほど問題はないとのこと。
真空管アンプはメンテナンスが大変?
これはアンプによると思いますが、PL-Lに関しては(真空管を除けば)ほとんどメンテナンスフリーに近いのではないかと思っています(まあ想像半分期待半分ですが)。ちなみに太陽インターナショナル(旧:大場商事)は並行品の修理は受け付けないと思うので、高いけど正規輸入品を買った方が後々安心かと思います。太陽インターナショナルのメンテナンス技術力に関してはノーコメントですが(9年間使ったConcentra2も結局一度も壊れなかったので大場のメンテナンスに関する経験値がゼロ故)、メーカーのNAGRA自体はしっかりしている(と思う)ので不安はありません。いざとなったらメーカー送りにすればよいのです。
というわけで、PL-Lは音もデザインも使い勝手も素晴らしいプリアンプだと思いますよ!