memento

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不気味で素朴な囲われた世界(西尾維新)

不気味で素朴な囲われた世界 (講談社ノベルス)

不気味で素朴な囲われた世界 (講談社ノベルス)

時計塔が修理されない上総園学園の2学期の音楽室。
そこから始まった病院坂迷路と串中弔士の関係。歪な均衡を保つ学園の奇人三人衆、串中小串、童野黒理、崖村牢弥。そして起こってしまった殺人事件。迷路と弔士による探偵ごっこの犯人捜しが始まり、崩れたバランスがさらに崩れていく……。これぞ世界に囲われた「きみとぼく」のための本格ミステリ!


きみとぼくの壊れた世界」に続く第2弾。前作の続きかと思いきや同じコンセプトの別設定のお話でした。
そもそも西尾さんの作品は、登場人物たちと彼らを取りまく環境(状況)設定の魅力、登場人物たちの関係性から紡ぎ出される刺激的な会話(独白)が魅力だと思っているのですが、この「きみぼく(シリーズ?)」では、登場人物の関係設定において「異常(インモラル)」な要素を組み込んでいる点が他のシリーズとは異なるある種の緊張感を生みだし、そこが魅力だと思っています。
前作の場合「禁じられた一線を踏み越えつつある兄妹、櫃内様刻と櫃内夜月との関係」が物語の中心にピーンと張り詰めた「線」を形成し、それが物語全体を引き締め、収束させ、魅力的なものにしていたと思うのですが、本作の場合、その「線」が最後の最後で見えてくる分、そこに至るまでの物語が若干弛んでいるよう感じられてしまい、構成的に損をしているように思えました。「線」自体は本作の方がインモラルだと思うのですが、残念ながら前作の方が効果的だったように思います。
また「線」を取りまく他の登場人物たちの魅力度も、全体としては前作の方が上だったかなぁ。ただし探偵役でもある「病院坂」についていえば、前作の「黒猫」の饒舌キャラと本作の「迷路」の顔話キャラは良い勝負であり、どちらも魅力的です。迷路と弔士とのコミュニケーション手法は中々に斬新であり、個人的には本作の中で最も魅力的な要素でした。特に顔話キャラ故に成り立つ、フェイスマークのみの携帯メールは最高でした!
そんなわけで、個人評価としては前作の「きみぼく」が95点で本作の「ぶきみそぼく」は78点となるのですが、西尾維新さんらしさは十分に表現されている作品なので、読んでみる価値は十分にあると思います。
ちなみに第3作は『きみとぼくが壊した世界』で、これでシリーズ終了だそうです。タイトルからすると第1作と関係が強い作品かも。そうだとするとかなり楽しみです。