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水霊 ミズチ(田中啓文)

水霊(みずち) ミズチ (角川ホラー文庫)

水霊(みずち) ミズチ (角川ホラー文庫)

『平成日本の百名水』神社の遺跡から湧き出た水を商品化する、過疎村の村興し事業の目玉企画だった。ところが、その計画に携わる者が、人間離れした食欲をしめした後、痩せ衰えて死亡する怪事件が発生する。湧き水と事件の関連性を指摘する民俗学者・杜川己一郎は、遺跡の学術調査を進めるに従い、疑念を確証へと近づけていくのだった。―現代文明の危機に警鐘を鳴らすフォークロア。その想像を絶する、真の意味を紐解く驚天動地のホラー大作。〜「BOOK」データベースより


この小説は同じ「水霊 ミズチ」というタイトルで映画化されたのですが、その映画を見た友人が「ぜんぜんダメ」と言っていたのでDVD化されたときもスルーしていました。ただ、「しにみず」「古い遺跡」「死の連鎖」あたりのキーワードにはビシビシと来るものがあったので「原作を読みたいな」と思っていたのですが、よく行く本屋には並んでいなかったのですっかりと忘れていました。先週その友人から「碑文谷ダイエーの本屋でたまたま見つけたので買ったよ」(注:その友人も原作を探していました)という話を聞くにつれ、「これは私も手に入れねば!」との物欲(?)が再び沸々とわき上がり、ふとアマゾンを見たらちゃんと在庫があるではないですか!(最初からアマゾンを調べればよかった...)
というわけで、探していた「水霊」をやっと手に入れ、大阪出張の往復の新幹線の中で読みました。その感想はというと...


「オモシロイ!」。細かな点で首をかしげる部分もあるにはありますが、本筋のストーリーはしっかりしており且つそれが魅力的なのでグイグイと引き込まれます。
DVDでは東京近郊となっていたので原作もそうなのかと思ったら、あにはからんや、舞台は宮崎で、しかもかの有名な「伊邪那伎(イザナギ)・伊邪那美イザナミ)神話」(伊邪那伎が伊邪那美を追って黄泉国に行く話)がストーリーのコアとなっていました。その神話の意味するところ、そして伊邪那美黄泉醜女の正体あたりのアイデアが秀逸です。非物理的な存在に頼ることなくある意味科学的に説明しようとしているあたりに好感が持てました。映画ではこの黄泉醜女をどのようにビジュアライズしたのか非常に興味がありますね。いずれWOWOWあたりで放送するような気がするのでその時に確かめてみましょう。
ちなみに古事記によると伊邪那伎が黄泉の国から帰って穢れを禊ぎ祓いした場所が「阿波岐原」という地らしいのですが、宮崎市には「阿波岐原」という地域が実在しており、そこには「禊ぎ池」そして伊弉諾尊伊弉冉尊を祀っている「江田神社」があります。(これらは小説の中にも登場しています。) 一方小説の中では「黄泉(伊邪那美大神)を封じている千引の岩が見つかった場所」という設定の「飯縄山」は宮崎近辺には見つかりませんでしたので、こちらの設定は創作のようですね。(長野の飯縄山を持ってきたのでしょう。小説に登場するトンデモ系オカルト誌の記者の名前が「戸隠」なのはそれでかな。)
伝奇小説好きの方にはお薦めできる一冊だと思います。