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audio&visual, headphone&earphone, bicycle, music, animation, book, wine...趣味領域の外部記憶装置です。 <since 10 aug 2006>

パンドラ 上・下(谷甲州)

パンドラ〈上〉

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パンドラ〈下〉

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動物生態学者・朝倉は、渡り鳥チョウゲンボウの異常行動を観測した。朝倉は、そのことから恐るべき仮説を導きだす。しかしそれは地球の命運を左右する凶変の始まりにすぎなかった。人類の生存を賭けた熾烈な戦いを描いて、人間存在の根源に迫る、究極のハードSF。(BOOKデータベースより)

一言で言うとファーストコンタクト系のSFです。上巻は地球上で起こる異変と地球外生命・アルジャーノンによって高知性化された動物たちとの局地戦、下巻は地球外生命・アルジャーノンの母体とも言える彗星体・パンドラとの宇宙での戦いを描いています。
地球外生命の存在形体の設定はオリジナリティがあり面白いですね。また上巻は異変の原因究明という大きな流れがストーリー展開の根底にあるのでぐいぐいと読ませる力があります。しかし下巻では早い段階で彗星体・パンドラとの戦いという基本的な構図が明らかになってしまうため上巻ほどのドライブ力はありません。また「パンドラとの戦い」という大きなストーリーの上で描かれる「アメリカ、中国、ロシア、日本といった各国の思惑のぶつかり合いと政治的駆け引き」という、およそSFの本質とは異なる側面にフォーカスがあたりすぎるため、SFを期待して読んでいる私には正直違和感がありました。ストーリーとしては面白いし、各国の対応の仕方などは現実の国際情勢を皮肉っぽく描いているという点で興味深くはあるのですが、でもねぇ…。
それでも(細かい違和感はあるものの)大きなストーリー自体は魅力的なので全体としては面白いSFとして読み進められるのですが、ラストの終わらせ方については「何でそうするかなぁ」と思ってしまいました。ファーストコンタクト系ということから、「人類の総力を挙げて戦い撃滅(撃退)する」か「平和的な共存の道、あるいは未来につながるような人類の進化(の可能性)」というハッピーエンド系か、「人類滅亡への道」というバッドエンド系(両極端ではあるけれどどちらにしても「カタルシス」を感じるという点において共通している)の結末を期待していたのですが、この小説の結末はその中間的と言うべきものとなっています。「人類の選択は正しかったのか、あるいは....。」という、読者に考えさせるようなエンディングを選んだのかもしれませんが、個人的好みとしては、白黒をはっきりとつけてもらいたかったです。(でもこれはこれで日本人的エンディングと言えなくもないかなぁ...。)
また全体として「どこがこの小説の真の山場なのかよくわからないなぁ」という印象を受けたのですが(小さな山場が満遍なく散りばめられているという印象)、この小説自体がSFマガジンに全44回で連載された小説を単行本にまとめたとのことなので、腑に落ちました。
基本的なストーリー自体が面白いだけに、「もったいないなぁ」という気持ちからいろいろと不満点をあげてしまいましたが、総合的には十分に面白いSFだと思いますので、興味を持たれた方は是非読んでみてください。